図書室あと地

褪せた灰桃色のカーペット。

『末ながく、お幸せに』あさのあつこ(読書感想文)

そのとき、別に本を買おうと思ったわけじゃなかった。友だちとの待ち合わせまで、10分くらい時間があったから。目についたのが本屋だったから、お店に入った。

 


その本を手に取ったのにも深い理由はない。新刊の棚が目についたから。作者の名前を知っていたから。表紙に描かれた学生の女の子が、どこかなつかしい気がしたから。

 


ジャケ買い、するつもりはなかった。裏の帯に書かれた言葉を読むまでは。

 

 

 

「本物の結婚とはーー

相手に幸せにしてもらうのではなく、

相手を幸せにするのではなく、

自分の幸せを自分で作り上げる。

それができる者同士が結び合うこと。」

 


どうして心が動いたのか。たぶんそのころ、私が考えていた何かぼんやりしたものが、像を結んでそこに現れたように思ったから。


例年通り不遇なクリスマスには、自分へのプレゼントに本を買った。「POWERS OF TWO 二人で一人の天才」という本だ。途中まで読んで、今は家の机に置いてある。


それもこれも。「ふたり」という人間関係の単位に、少しだけ敏感な時期だった。

 


自分の「ひとり」が身に染みたせいだ。

何があったかなんていちいち言ってやらないが、自分のご機嫌は自分で取っていくという決まりごとを思いだした。それから、ひとり暮らしを始めようと決めた。


なんとなく思っていた。

「まず、自分ひとりを何とか乗りこなそう」

他人から貰う幸せのありなしにかかわらず、平気で笑っていけるよう。

 

 

 

さて、本の中身はというと、私が思っていたのとは違っていた。結婚式の話だと思った。ハッピーウエディング、ひと組みのカップルの愛の話だろうと。そうではなかった。

むしろ、その題材は必要最低限しか語られない。ふたりのなれ初めも、愛のエピソードのひとつもない。『結婚をそれと語らず示す』ような雰囲気の作品だった。


舞台は結婚式。花嫁と花婿の周囲の人間が、それぞれの目線からみてきたもの、今みえるものを代わりばんこに語っていく。それは告白だったり、独白だったり、宣言だったり、そんな調子で。

 


描き出されるものは、人生。

それは悲劇や絶望を漏れなく含んでいる。

 


別れる、切る、捨てる…「結婚式のタブー」とされるような話題が当たり前に転がっている。登場人物たちは、自分の心にあるしこりにあえて触れる。

そのうえで、花嫁の結婚を言祝ぐ。心から。


「いい結婚式だ」みんなが口ぐちに言う。その良さは、言葉を通してこちらにも伝わる。曇りない幸せにはちきれんばかりの式、ではない。優しくて賢くて、ただ幸福な花嫁、ではない。


いいことも悪いこともある人生を生きる。その中でたどり着いた、特別な日。この結婚式はそんな位置づけだ。登場する誰にとっても。


「幸せな結婚式」の場にそぐわない話も、誰にも話さないで終わるような奥底の事情も、ちゃんと拾われていく。それでいて、若い2人の結婚という「晴れの日」は汚さない。

ほんとうに、いい結婚式だと思う。その場にいるひとたちが願うことを、読み手にすぎない私でさえ願いたくなる。


末ながく、お幸せに。

 

 


表紙絵を見ると、やっぱり思う。

この本が語ろうとするのは「結婚式」ではない。

 

 

末ながく、お幸せに

末ながく、お幸せに