図書室あと地

褪せた灰桃色のカーペット。

語り口のいい文章を書きますね。

「語り口のいい文章を書きますね。大学に入ったら小説でも書いてみたらどうですか」

 

大学進学の進路報告書をメールで送ったとき、高校の進路指導の先生は私にこんな返事を書いて寄越した。

あの人は私なんかにどんな物語りができると思ってくれていたんだろう。

 

ごめん、ミスターアルパカ。まだ一つとして形にしないうちに私は、こんなだ。

尤も、あなたはもう私にそんな言葉をかけたことも覚えていないだろうね。

 

「頭いいね」「物知りだね」「声かわいいね」

そんな褒め言葉たちが、正直言うと嫌いだった。

だけど私の文章をいいと言ってくれたその言葉は、今でも一言一句忘れず憶えているくらい、嬉しかったのに。

今だって未練だ。書きたいことなんてわからないのに。

 

なきごとを書きたいわけじゃない。正しい言葉とマナーで、だれが言っても同じようなことを書きたいわけでもない。

校門脇の木の下で羽化したばかりの蝉が白いまま死んでいた。そんなことを言っても誰も振り向いてはくれなかった。でも、どうせならそんなことを選んで書きたい。わからないでいい、わかって堪るかと思いながら、そんな言葉が実は伝わってしまうことも知りながら。

 

 

"疲れた。生きている意味が見えない。がんばってもがんばっても「がんばりましょう」しか貰えない。戦って前に進むその先に欲しいものは何もなかった。それなら何が欲しかった?"

こんなことはあまりにも剥き出しだ。物語りくらい、報われる努力と叶う願いの夢が見たい。

 

"ノエラ。君の目はなんだかさびしかつた。だから何処かへ行つてしまつたんだらう。そんな目をぼくは好きだつた。さういう目をみると、今でも心を離すことができない。"

嘘ではないが今の心にはない言葉だ。これを書いて何の意味があるだろうか。

 

 

この世界は空の底だ。溺れていることに皆んな気づかない。

風の強い日は、どこかで世界が変わるのだと思っていた。千尋が迷い込んだときも風が吹いていたように。

わかり合えてしまう言葉なんかいい加減だ。

心の形に言葉を当てろ。そんなきれいでたまるか。